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虹が行く先々は

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去年の8月末のことでした。

私が小学生の頃
貴方はペットショップで売れ残っていました。
母はチワワを飼うつもりでしたが、貴方に運命を感じたそうです。
ケーキを入れるような小箱に入って我が家にやって来た。

朝起きれば、私の枕を奪って寝ていて
学校から帰ってくると尻尾を箒の様に振り回す。
散歩のときは、まっすぐ歩かないから寄り道ばかり。
夏は私の布団で巣を作り、冬は私の布団の中に入ってきた。
布団のシーツを掘り返して悪戯するのも好きでしたね。
横になって寝ていたら、ゆっくりと歩いてきて私の背中に寄り添った。
晩御飯の時、ジャンボーンの欠片を貰うことが
一日で一番の幸せだったでしょう?

段々と心臓病が悪化し、貴方は寝ていることが多くなった。
咳を繰り返し、突然嘔吐する姿を頻繁に見るようにもなりました。
毎日、美味しくもない薬を飲ませて御免なさい。

貴方と離れたくなくて、ずっと一緒に居たくて
君は20年以上生きるんだ、大丈夫なんだと
私はずっと言い聞かせていました。

私が信じた半分の年数しか貴方と一緒に居れなかった。
貴方の最期の日、私が最後の散歩に行ったのを覚えているか。
調子が悪そうだとは思っていたけど、本当に突然だった。

動物病院に運ぶ最中に君は逝った。
先生は「優しい家族に見守られて幸せだったろう」って。
診察台で貴方は何故、動かないのか。
今までの思い出が一気にフラッシュバックして
もう一緒に居られないと悟ったとき、涙が止まらなかった。

君の顔を整えてくれた先生が
「この子は、今まで良く頑張った」
「お金は必要ないから、一緒にお家に帰りなさい」と言う。

後日だが、お礼を伝えるため洋菓子を持って行った際
看護師さんから伺った話だが、私と君が病院を出た後
先生は机に突っ伏して号泣していたそうだ。
赤ひげ先生、貴方に診てもらえて本当に良かった。
一生感謝します。

人間が死んだら目蓋を閉じるが、君の場合は閉じないそうだ。
段々と濁り、輝きを失っていく瞳は、まるで過去を思い返している様だ。
そして帰路、母は「モノ」になってしまった君を箱に入れようとした。
私は、それを拒否した。

私が抱いて帰ろう、いつもの散歩と変わらないよ。
そうだよ、家に帰ってきたんだよ。

お前の好きなタオルケットで横になろうな。
夏場で君の体が痛むから、冷たいと思うけど保冷剤を置かせてね。
目が染みるかもしれないけど、乾かないように目薬もしよう。

今でも晩御飯は覚えている、カレーだった。
いつも私に向かって吠えて、ジャンボーンを欲しがる君。
布団の上で遊んでから最後に あげるのが日課。

お茶を取ろうと冷蔵庫を開けると、
ジャンボーンが入ったタッパーが見えた。
このタッパーは、もう開けられることが無い。
そこで横になっている君は、もう欲しがらないからだ。

一欠片でも幸せそうな君。
一本 丸ごと食べたら、どれだけ幸せだった?
いつも母に「一本あげたい」と懇願していた私。
貴方はもう食べれない。
一本どころか、欠片も食べない。

色んな記憶が、またも私の頭を巡る。
冷蔵庫を閉めたとき、我慢が出来なくなった。

手が震えてスプーンが握れない。
私は食べることができて、君は食べれない。
神様、理不尽じゃありませんか。
好きな物を、私は沢山食べる事ができる。
でも、まだ好きな物を目一杯食べて無い
この子はどうなるんですか?

まだ沢山余ってるんです。
欠片を繋げたら1本にだってなるんです。
どうして、何故。

寝ないでほしい。
いつも、この時間は吠えてるだろう。
今なら1本丸ごとあげるよ。
幸せそうな顔をしてくれないか?
どうか起きてくれ。

考えが、ぐるぐると廻り
耐え切れなくって、部屋に篭った。
壁に腰掛け座り込む私。
疲れきった私の体。
何故か隣に君が居るような気がした。
きっと、君はそこにいたんだろう?

無意識に撫でようと腕が上がる。
全てに耐えれなくなった。

私は家を飛び出した。
バイクを走らせて、薄暗い夜道。
オレンジ色の電灯が照らしているが
「ここに行けば良いよ」という標識は無い。
君は、ちゃんと天国に向かって歩けてるか?

気づくと親友の家に向かっていた。
気丈に振る舞い、事情を全てを話した。
無理に振舞う私の本心に気づいていたのだろう。
愛犬家である親友は元気付けてくれた。
この道へは君が導いてくれたのか。

朝、やはり君は眠っていた。
夢だったら本当に良かったのに。

玄関で迎えてくれたなら。
尻尾を箒みたいに振ってくれたなら。
寝転がってお腹を見せてくれたら。
昨日の全て嘘だったなら。

葬儀屋は夕方に来るそうだ。
君の可愛らしい顔が、
君の綺麗に光る毛が、
君の愛しい肉球が。
全てが無くなり、骨となる。

朝はずっと一緒にいた。
ひたすら撫でて、君を愛でた。
もう、一生君を撫でることは出来ないから
君の感触を忘れないように撫でたのだ。

昼になると、近所の人達がやって来た。
それどころか、君のために
トリマーさんや、ペットホテルの人達まで。

皆が花束を抱えて、君を囲った。
山のように盛られた花束が君を飾った。
多くの人が君の為に来てくれたんだよ。
君は昔から人気者だったからね。

曇った目で、君は誰を見ていたのか。
皆が泣いているんだよ。
君のために悲しんでるんだ。
こんなに多くの人に愛してもらえて、君は幸せ者だ。

葬儀屋が来る直前、私と君だけの時間を作ってもらった。
その時、君の毛を少しだけ貰いました。
未練がましいのは承知の上だけど、
それでも、君に見守っていてほしいから。
一年経とうとしている今でも財布の中にあります。

霊柩車まで私が抱いた。
これで本当に最後のだっこ。

小学生の頃、君は家にやってきた。
十年間、太陽は浮き沈みを繰り返し
そして、この太陽が沈む頃に
君はこの家から去っていく。

十回しか巡らなかった春夏秋冬。
君は何を思っていたのか。
私と一緒にいれて良かったかい?

それから段々と涼しくなっていったのを覚えてるよ。
夏の終わりに君は逝ったからね。
秋虫が鳴き始めた頃になると
暖かい君が、どうしようもなく恋しくなるね。

君が愛用していた私の枕は、君にあげる事にしたんだ。
だからもう、遠慮はしないでいいよ。
私は 枕が無いほうが寝やすいから。

近所の犬を飼ってる人が、君の犬小屋を欲しがってたけど
絶対に渡さないから安心してね。
君は、いつでも休んでいいんだよ。

君が居なくなって、暫くした後かな。
近所の小さな女の子から、クレヨンで描かれた絵を貰ったのさ。
君が虹の橋を渡っている絵だったね。
タヌキみたいに描かれてたけど、それは許してやってくれ。

その子の親からもメールが来たのさ。
ゲームやテレビでしか生死を知らない我が子が、
冷たくなった君を触って、家に帰ってから大泣きしたんだってさ。
君は、一人の子供に生きる事の素晴らしさを教えたんだね。

描かれた絵の説明もしてくれたよ。
生き物は死んだら、虹の橋を渡るそうだ。
その先には島があって、そこで仲間達と幸せに暮らすんだと。
それが本当なら、君はどうしてるのかな。

私の本心は、ずっと傍にいてほしいけど。
君は、そうもいかないのだろう。

2010-12-17【Xmas-syndrome】より
もう一度、強く君を想って。
おやすみ、愛犬よ。

お前は私の家族で、親友でもあった。
私も、その時が来たら同じ虹の橋を渡らせてくれよ。

  by zinraisan | 2012-08-09 04:59 | 特別 | Comments(6)

Commented by かつお at 2012-08-10 05:43 x
オレも犬いるからわかる!
もう家族だもんね!
ほんとに木登りなんかしなかったらよかった!
Commented by zinraisan at 2012-08-12 18:10
常にいる者は、ずっといると思うな!

失ってから気づくのでは遅すぎるのだ!

女の子に良い所見せようとして木登りするなんて

どこの小学生、もといカツオ君(略
Commented by マヤ出身のナイト at 2012-08-20 15:59 x
初めてコメントさせて頂きます。

たまに記事を拝見するだけでしたが、
昔家にいた犬が亡くなった時を思い出し、
コメントを書きたくなってしまいました。

ある朝起きると、庭の真ん中の小屋にいるはずの
犬が居らず、地面に固定してあった鎖を引き抜いて
脱走したのかと思ったら、玄関の前でこちらを見て
ずっと待っていました。

何事かと思って家族全員が集まった後、急に力が
抜けたように倒れ、病院に連れて行く暇もなく
息を引き取ってしまいました。

もうずいぶん歳で力も無かったのに、最後の力を
振り絞って、家族に挨拶するために待っていたのかと、
家族皆で泣きました。

中学生の時から一緒だったその犬は、お言葉を
借りますが、家族であり、親友でした。

もし良ければ、東京事変というバンドの「落日」と
いう曲を聞いてみてください。
私はいつも「親友」を思い出しながら、この曲を
聞いています。
Commented by zinraisan at 2012-08-21 00:07
>マヤ出身のナイト 様

コメント有り難うございます。
「家族であり、親友でもあった」愛犬を失われた
貴方の辛さはお察しします。

どうか貴方にも、いつか訪れる最期を通じ
「親友」の待つ虹の麓で再来できることを切に願います。

唐突ではありますが、
「ペットロス症候群」をご存知でしょうか。
情けない話ですが、私は不安になるとジワリ
と染み渡る様に胸が締め付けられるような感覚
に陥る時があります。

辛い時に、何も言わなくても傍に居てくれて
癒してくれる存在の有無というのは、
あまりにも大きすぎました。

酷い時は、自暴自棄の様な状態でした。
2011年の8月から約半年の間
更新が止まった原因でもあります。





Commented by zinraisan at 2012-08-21 00:13
もうすぐ、私の愛犬も一周忌を迎えます。
年を重ねる度に、愛犬の感触や記憶が薄くなり、
忘れてしまうのではないかと恐れてもいます。

これからは、辛い事があれば
自力で解決しなければなりません。
強く頑丈な心を身につける事が出来るよう
少しずつでも精進したいと思います。


最後になりましたが、実は私も
愛犬が生きていた頃から東京事変の
「落日」は何度も聴いています。
椎名林檎さんの飼い猫の「死」に対し
捧げた曲だと聞いたことはありますが、
いざ、家族の不幸の後に聴くと
とても悲しくて、考えさせられる曲でした。

「落日」の素晴らしさを共感している人が
当ブログの読者様にいらっしゃる事を知り、
今、私は非常に感動しています。
これを機会に、聴きなおしたいと思います。

稚拙かつ、長文となりましたが
今後とも当ブログを宜しくお願いします。
Commented by マヤ出身のナイト at 2012-08-22 19:52 x
返信ありがとうございます。

自分が最期を迎え、虹の麓で親友に会った時に
恥ずかしくない人生を送りたいものです。

「ペットロス症候群」の事は初めて知りました。
あの時の喪失感は確かにすごいものでしたが、
事前にお医者様から、もう永くないかもしれないと
言われていたせいか、そこまでの症状は無かったです。

愛犬の感触や記憶をずっと鮮明に覚えている事は、
やはり難しいです。ただ、たとえ何十年も経って
感触が思い出せなくなったとしても、精一杯の愛情を
注いだ事実は、揺るぎようがありません。
だから、忘れることを過剰に恐れたりしなくても
良いのではないかと思います。

「落日」は他の曲のカップリングで、残念ながら
それほどヒットした訳でもないので、ご存知だった
と知ってすごく嬉しいです。

まとまらない文章になってしまってすみません。
これからもブログを楽しみにさせていただきます。

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